開戦前に既に東条 英機は敗戦を知っていた……タイムマシーンに乗って未来でも見てきたかのような話が、太平洋戦争開戦前である昭和16年夏になされていた。それも模擬内閣が本物の内閣に対して。

模擬内閣というのは、この年設立された「総力戦研究所」のカリキュラムとして作られたもの。研究所の研究生が内閣ごっこをしながらある課題に取り組むのだが、その課題が何と日米開戦。要するに、アメリカ相手に戦争をしたら日本は勝てるのかどうかを研究せよというのである。勝つか負けるかなど少し考えてみただけで分かりそうなことだが、課題である以上は何度も閣議を開催し意見を戦わせる。具体的な統計や過去のデータなどを持ち寄り導き出された結果は……やはり敗戦。その姿がクリアな形で提示されたというのに、東条 英機は日米開戦へと突き進んでいった。

もっともこの本を読んでいると、東条 英機はかわいそうな人だとも思えてくる。彼は首相だけではなく陸相でもあり、後には参謀総長まで兼務した。表面上は最高権力者そのものなのだが、実際はどうだったかというと、天皇や軍、アメリカとの板挟みに遭い、調整役に成り果てていた。つまり彼がどう考えようがどう動こうが、1人だけでは流れを止められなかったのだ。それなのに極東軍事裁判では死刑に処され、今なお恨まれ役になっている。本書からは、この一連の流れが持つむなしさも感じざるを得ない。

ちなみにこの本、数年前に石破さんが国会の質問で紹介したことで有名であるが、私が読んだのは30年ほど前の高校生の頃。この本を下敷きとしたドラマが放映されたのだが、登場していた中村 雅俊と神田 正輝がそれはもう格好良くって。翌日、駅前の本屋に行って原作本を取り寄せてもらったという……甘酸っぱい私の思い出である。

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