ieshige

2019/08/22 00:22・

本書は大阪大学で長く物理学を教えてこられた金森順次郎先生による磁性の教科書である。金森先生は大阪大学で博士号を取得して、大阪大学で教鞭に立ち、そして大阪大学総長をも務めた人である。
本書はその名のとおり、磁性分野を広く解説するものである。まず磁性の基礎として磁性の歴史、次いで電子や陽子、中性子の磁気的性質について解説がなされた後、これらを基礎として原子の磁気モーメントの話が続く。ここでは3d金属と4f金属を例に、実際の磁化率なども示しながらスピン軌道相互作用やJ多重項、Curie則、結晶場理論が導入される。そして3章から7章にわたって、磁性を担うスピン、それらの間のさまざまな相互作用について解説されていく。8章では、磁性の微視的実験方法として主に磁気共鳴と中性子の磁気散乱が、9章ではその他の測定法としてメスバウアー分光法が紹介される。8章で紹介された二つの測定が主に電子に由来するのに対して、メスバウアー分光法は原子核から磁性を捉えるものである。10章と11章ではこれまでの局在系(原子がスピンを持っている)に対して、遍歴系(スピンが原子に束縛されない)の磁性が解説されている。主として金属で成立しているこの磁性は、主に伝導電子がスピンの担い手となる点でこれまでの磁性とは区別される。
金森先生が物理屋であることからも分かるように、この本にはさまざまな数式が頻繁に出てくる。しかし本文を読んでみると、現象を統一的にちゃんと理解しようとする一方で、イメージやその物理的意味を理解できるようにと配慮していることが感じ取れるだろう。最近はより難易度が低くすぐ読み終われるような教科書や参考書がたくさん出版されているが、この本を一読することでこれまで気づかなかったことや物理的考え方の一端を得ることができるだろう。

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